不思議を売る男 ネタばれなし感想
ジェラルディン・マコーリアン作
1989年カーネギー賞受賞
1989年ガーディアン賞受賞
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★★★☆ 4点
内容 エイルサが図書館で出会ったその男は翌日から、エイルサの母親の古道具店ではたらくことになった。はじめは不審に思っていたエイルサ親子も、その男の商売のうまさに魅せられていく。というもの、男は、まことしやかにそれぞれの古道具の由来を客に語ってきかせ、客をその品物に夢中にさせるのだ。エイルサ親子も、客同様、その謎の男の話にひきこまれていく…。
- 作者: ジェラルディンマコーリアン,佐竹美保,Geraldine McCaughrean,金原瑞人
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 1998/06/01
- メディア: 単行本
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感想 ロマンティックじゃないですか!古道具屋を舞台に、やってきたお客にその道具にまつわる不思議な昔話をしていくなんて(*´∀`人):・:*:・。道具にまつわる短編の合間に、現代の古道具屋のお話が進んでいくというスタイルです。
短編はかなり、当たりはずれがあります。なので総合評価は5点満点の4点。
挿し絵の佐竹美保さんのイラストが、作品の雰囲気にぴったり合ってて、とてもいいですね。
話し手であるMCCという男はお客さんたちの、アイデンティティにもとづく誇りや情に訴えかける話をわざとして商品を買わせるのですが、ちょっとやり方が卑怯な気がしました(・д・)。
訳がベテラン金原瑞人さんだけあって読みやすいです。
この本は主軸の話のほかに、いくつものタイプの違う短編がはいって来るので、個別の点数づけと感想も書いていきますね。
・2章 大時計
ジンクスに振り回された老騎手の話。
面白さ ★★☆☆☆ 2点
メッセージ性 ★★☆☆☆ 2点
サスペンス
後味が悪かったです( ´△`) 。何が言いたいのかもよくわからなかったし、「世にも奇妙な物語」のような不思議で不気味な話って感じでした。理不尽で不可解な話が好きな方にはいいかもしれません。
・3章 寄せ木細工の文具箱
性格の悪い女の子がロンドンから両親のいるインドに行きたがる話。
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★★★☆ 4点
2章と同じような、不可解で不気味な話。人によってはカタルシス的なスカッと感があるかもしれません。文章は結構詩的でセンスがいいと思いました。以下ネタバレ感想です。
反転 最初読んだ時、「なぜ善良そうな両親からこんな性格の歪んだ子が出来たのだろう」と思ったのですが、読み直してみると、両親はグレイスの言うことを全部鵜呑みにして、甘やかしていますね(+。+)。しかも二人で異国にいってしまい、手紙のやりとりをしているとはいえ、子供をほったらかしともいえるかもしれません。 甘やかし+ほったらかしの教育というのは子供への影響としてかなり悪いでしょう。きっとそのせいもありますね。グレイスがあんなになったのは。
よくわからないところもあって、召使のライザがイギリスにいたといったり、いないといったりするところ、エリザの婚約者がほとんど出番がないのに自転車の音だけ主張してくるのはどういう意味だろうとか、そこらへんは読み直してもわかりませんでした(´ヘ`;) 。
隣人のシンさんからするとMCCの語った話は、自国民に対して傲慢なイギリス人をやっつけた痛快な話で、その感激から文具箱を買ったのだな、と思います。グレイスを死なせたのは、たぶん蛇だと思われるので不慮の事故という線も考えられるのですが、はっきりした描写がないので何とも言えませんね。
・4章 中国のお皿
1700年代の中国で陶工房が舞台のロミオとジュリエットの話。
面白さ ★★★★★ 満点
メッセージ性 ★★★★☆ 4点
この本の中で一番わかりやすい話ですね。とっつきやすくて一般受けしそうないい話です。ちょっと勧善懲悪的ですが面白かったです(^◇^) 。
作中に苺が出てきます。挿絵を見ても、現在のストロベリーっぽいですね。(日本版の挿絵ですが)日本に現在の苺が伝わったのは1800年代なので、1700年代なら中国に伝わっていた可能性はあるかもしれません。
・5章 テーブル
貴族の晩餐会のおかしな詩
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★☆☆☆ 2点
詩
詩は文章がきれいで前半など特に素敵ですね。ただ、何が言いたいのかよくわかりませんでした。オチも私の理解力が低いのかもしれませんが、意味が分からなくて‥ (゚_。)?。
・6章 ハープシコード
不運な少年と音楽を愛する海の男の話
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★★★☆ 4点
マッコクランさん(作者)さんはたぶん船が好きですね。何度か、船が出てくる話を書いていますが、船に関する描写、船酔いとか、船乗りとかそこら辺の描写も生き生きとしている気がします。そのせいか、マッコクランさんの船のシーンは何となく引き込まれてしまいますね。ロマンティックといえばロマンティックな話ともいえます。海賊ものとか海の男のロマンとか好きな方にはいいかもしれません。
船の部位の用語がよくわからなかったので図をのせときますね。
ハープシコードって初めて見たんですが、綺麗な楽器ですね‥
wikipedia掲載画像 作者Rouaud
ただ、最後はあれでいいのかな、と考え込んでしまう終わりでしたね( ´△`) 。
・7章 傘立て
癇癪持ちの男が都会へ行く話
面白さ ★★☆☆☆ 2点
メッセージ性 ★★☆☆☆ 2点
不可解話第3弾。この話は一番よくわかりませんでした。終始、人が不快になっている憂鬱な世界観で最後もすっきりしなかったです(´・ω・`)。
以下ネタバレ感想です。
反転 いろいろ意味を考えた挙句、MCCが、クライブ伯父さんぽい人が主人公の話をすることで、遠回しに伯父さんに「短気は損気」みたいな忠告をしているのかな、とそれだけしか思いつきませんでした。
・8章 鏡
美少女が高慢にふるまう話
面白さ ★★☆☆☆ 2点
メッセージ性 ★★★☆☆ 3点
不可解で不気味な話第4弾。よくわかりませんでした('A`) 。印象としてはアンデルセンの「赤い靴」のような話。
ヒロイン、ユースタシアは「ロチェスターのような紳士がいない」と、がっかりしますが、ロチェスターとは「ジェイン・エア」という恋愛小説のヒーローのことらしいです。
※「ジェイン・エア」は1847年刊行の恋愛小説で、孤児で家庭教師のヒロインが、雇われた家の主人と恋をする恋愛小説
ロチェスターはwikiによると、美男子というわけではないらしいです。お金持ちがよかった、ということなんですかね?「ジェイン・エア」を読んでないので何とも言えませんが。
・9章 ロールトップデスク
ストレートなミステリー小説
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★★★☆ 4点
ミステリー
マッコクラン式ミステリーは彼女らしさが出た作風で面白かったです(^O^) 。ミステリーを読み慣れている方には物足りないかもしれませんが…
ただ明らかな憎まれ役というかうっとうしいキャラが出てくるのが露骨で、ちょっぴり作品の品性を落としているようにも感じます。
・10章 木彫りのチェスト
16世紀、イギリスでカトリック狩りが行われていたころの話
面白さ ★★★☆☆ 3点
メッセージ性 ★★★☆☆ 3点
宗教的なお話です。前半のいろいろがあまりに理不尽なので<(゚ロ゚;)>肝心の後半のインパクトが薄いです。やはりいまいちこの話が何を言いたいのか読み取れませんでした。
マッコクランさんの宗教は何なのかはよくわかりませんが、イギリス人としてどんな気持ちでこれを書いたんだろうと思いました。以下ネタバレ感想
反転 仕えていた召使をカトリックの主人の代わりに、カトリックのスパイとして逮捕って意味が分からな過ぎて(;´д`) 、意識がそこに行ってしまい、後半が頭に残らなかったです。当時はそういうことがあったんですかね。だとしたらお金もないのに召使いを雇い、自分のせいで召使いたちが逮捕されるかもしれないというのに修道士をかくまった未亡人が勝手すぎるように思ってしまいます。
後半にしても、一家そろってあんなに簡単に変節というか改宗しますかね。それまでずっと信じてきたであろうプロテスタントから、非常にリスキーなカトリックになるなんてまずないと思うのですが(゚~゚)。
この流れで恋愛ものになってしまうのはいささか安易ではないかと思いました。問題の根の深さはもっと別な形で書けるんじゃないのかな、と。
・11章 鉛の兵隊
頑固で高圧的な父親と勝負する少年の話
面白さ ★★★★★ 満点
メッセージ性 ★★★★★ 満点
家族もの ヒューマンドラマ 感動作
この作品のために本書を読んでもいいのでは、むしろこの作品だけ読んでもいいのでは、と思うくらい完成された作品(∩・∀・)∩オォ!。物語として面白いし、いい話です。他の短編に比べても、メッセージやテーマがわかりやすいと思います。以下ネタバレ感想
反転 あんな高圧的で傲慢な父親に対して、息子はとっても優しいいい子ですね(ノД`) 。
おじさんはどこまで、確信犯だったのかわかりませんが、機転がきくし、みごとな説得ですね。ゲームの様子もとっても面白かったです。あのあと、お父さんはどんなふうに息子を認めたのか、とかその後親子にミゾは生まれなかったのか、とか、どんな顔して親子関係続けたんだろうとかいろいろ考えてしまいました(´・ω・`)。
・12章 ベッド
不気味な化け物が花嫁をさらおうとする話
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★★☆☆ 3点
ゴシック小説
世界観が面白いです。ゴシック的なフンイキが充分味わえます。そしてほかの作品に比べると、ほんのちょっとエッチかもしれません(〃∇〃)。(ブラウスのひもを指に巻き付けながら・・のところはセリフとかもかなり官能的に感じました)
作中に出てくるトランシルバニアはルーマニアにあるのですが、吸血鬼伝説で有名ですね。作中には吸血鬼は出てきませんが、雪男(ヒマラヤ山脈出身)や、フランケンシュタイン(イギリス出身)っぽいのが出てきて、もうめちゃくちゃですね。しかしそのいい加減さが西洋妖怪のパロディっぽくていいです(≧∀≦) 。
ちなみに作中に出てくるチョウザメはサメの仲間ではなく、古代魚という分類で人を襲うこともないそうです。
主軸の話のネタバレ感想
反転 エイルサ親子の話は、短編に比べてどうしてもインパクトが弱い印象です。お母さんのお人よしっぷりとか、MCCの親子振り回しっぷりとか、エイルサのほのかな恋心?とかクライブ伯父さんの存在の意味とか最後まで作者の意図がわからないままでした(´ヘ`;) 。
最終章は私の読解力では理解できませんでした。現実と思っていたエイルサ親子はお話だったんでしょうか。
MCCが、それまでと別人みたいな印象なのも、彼の状況も、眼鏡を残していったのもどう受け取ったらいいのか… (+。+)。最後、MCCはエイルサ親子の元に戻って結末を変えたのでしょうか。
何が現実で何が物語だったのかすっかりわからなくなりました。全部わかったという方、いたら教えてください。