児童書のレビュー・考察ブログ

主に海外の小学生・中学生向け児童書の感想、考察をしています。

真実の裏側 ネタばれなし感想

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ビヴァリー・ナイドゥー 作     

めるくまーる(出版社)

 2000年カーネギー賞受賞f:id:g-mccaghrean:20190114021925j:plain

面白さ ★★★★☆ 4点

メッセージ性 ★★★★★ 満点f:id:g-mccaghrean:20181205022501j:plain

 

内容 シャデーが登校の準備をしていると、突然銃声が鳴り響き、母が倒れた。ナイジェリア軍事政府の批判記事を書き続けているジャーナリストの父を狙った、何者かの仕業だった。シャデーと10歳の弟フェミは、その日のうちに、あわただしくロンドンへ脱出させられる。空港で出迎えてくれるはずの叔父はなぜか現われず、姉弟密入国を手引きした謎の女も行方をくらまし、二人は西も東もわからない非情な大都会のただ中に放り出されてしまった…。

 

「やつらは、まだおまえを殺っちゃいないんだぞ、フォラーリン!おまえを黙らせるまで、やつらがあきらめるものか!そうだろ?明らかにおまえは、やりすぎたんだよ」

父は、いつも命がけで記事を書いてきた。その父が今は一言もしゃべらない。でもシャデーには父の言いたいことがわかっていた。

「真実は真実だ。どうして、嘘が書ける?」  本文より

 

感想 90年代の荒れるナイジェリアから始まる物語。わくわくするような楽しいお話ではないかもしれません。

あらすじだけ読むと、重くてしんどいお話のようですが、個人的にはそんなに重くはなかったです。

 

シャデーが受ける仕打ちが時々あまりに理不尽で腹が立ってイライラすることもありましたがヽ(#`Д´)ノ、話のテンポがよくて展開が早いので、てきぱきと気持ちよく読めました(^O^)。

内容は、小学生には少し難しいかもしれませんが、中学生以降なら問題なく読めると思います。

話のテーマとして、危険を冒して真実を伝えることは果たして正しいのか、という問いかけをされているような気になり、読みながら自分だったらどうするか考えてしまいました(゚~゚)。

それでも、主人公シャデーのお父さんがしたことは、決して間違っていないと思いたくて、祈るような気持ちで読みました。社会問題を軸にして、難しいテーマを取り上げている本書ですが、話は全体的によくまとまっています。社会小説の手始めとして向いてる本ですねf:id:g-mccaghrean:20181219211441p:plain

 作者のビヴァリー・ナイドゥーさんは、南アフリカ生まれの白人で、南アフリカを舞台にした作品など、社会問題を取り扱った本を多く書いています。

 

真実の裏側

真実の裏側

 

 ちなみに作中に出てきた、ツンデ伯父と同じ大学にいたサロウィワ氏。実在の人物ということで、調べてみたら、一冊だけ著作が翻訳されていました。

 

ナイジェリアの獄中から―「処刑」されたオゴニ人作家、最後の手記

ナイジェリアの獄中から―「処刑」されたオゴニ人作家、最後の手記

 

そこから抜き出した、サロウィワ氏の人生をまとめておきますね。

前書きを描いた、友人であり、作家のウィリアム・ボイド氏によると、サロウィワ氏はナイジェリア西部にある、イバダン大学出身で、雑貨輸入を手掛ける、ビジネスマンでもあり、著名な政治ジャーナリストであり、作家だったそうです。「バシとその仲間たち」というテレビドラマ作品は1980年代のナイジェリアで最も人気を博したとのこと。

ジャーナリストとしてのサロウィワ氏はナイジェリアの根絶しがたい悪弊である、民族間の対立、少数民族基本的人権の無視、社会に蔓延する物質至上主義、国民に奉仕することなど考えもせず、ひたすら賄賂を要求する役人たちなどに対する痛烈な批判を日刊コラムに書いていたようです

。氏は少数民族、オゴニの出身で、オゴニランドは50年代中ごろから、石油採掘による環境汚染で甚大な被害を被ってきたと書いています。

やがて、ケンは作家活動を中断し、環境破壊への反対とオゴニ人の生存を求める戦いの運動を開始し、その象徴的存在となりました。その運動をケンは徹底して、非暴力抗議活動として行いました。しかし、1992年、ケンは軍事政権に逮捕され、拘留されますが、イギリスでの報道が功を奏して自由の身となります。

歴代のナイジェリアの軍事政権の指導者たちは石油が生み出す莫大な収入で私腹を肥やしてきました。こうした金の流れを阻止しかねないナイジェリアの大衆の動きは徹底的に弾圧されてきました。94年5月、オゴニランドの集会で演説する予定だったケンは車で向かいましたが、軍のよる道路封鎖があり、ケンは自宅へと引き換えしました。集会は行われ、暴動がおこり、混乱の中でオゴニの4人の長老たち―軍事政権に協力的だと言われていた人物たちーが殺されました。ケンは、事件が起きた時、現場から離れ、車の中にいたにもかかわらず逮捕され投獄させられました。11月、ケンと他8名の被告は有罪とされ、死刑判決を受けました。メディアの非難、イギリス、ニュージーランドなどでの抗議行動があったにもかかわらず、その8日後、処刑は行われてしまいました。

 

ほかの方の素敵なレビューをのせときます。

www.yamaneko.org

 

さて、「真実の裏側」には続編がありますが残念ながら日本では未刊です。以下、続編についてあらすじ説明なので一応空けて書きます。

 

 

 

 

 

 

 

続編は「Web of Lies」(嘘の綱?)という題名で、舞台は2年後、14歳になったシャデーは、フェミ、父とともにイギリスで亡命者保護の要求が承認されるのを待っていたのですが、フェミが麻薬取引のギャングと関わりを持ち、さらに殺人の罪で逮捕され、ギャングが彼らのアパートに発砲してくるという危機に直面する、という内容らしいです。

シャデー一家にはまだ苦難が続くのですね… ( ´△`) 。いつか邦訳が出てほしいです(´・ω・`)

Web of Lies (English Edition)

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ヨハネスブルクへの旅

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炎の鎖をつないで―南アフリカの子どもたち

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