児童書のレビュー・考察ブログ

主に海外の小学生・中学生向け児童書の感想、考察をしています。

海の英雄 ネタばれなし感想

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ジーン・L・レィサム作   

新紀元社

1956年ニューベリー賞受賞f:id:g-mccaghrean:20190225013007j:plain

面白さ ★★★★☆ 4点

メッセージ性 ★★★★★ 満点f:id:g-mccaghrean:20181205022501j:plain

内容 実在した18世紀アメリカの数学者ナサニエルバウディッチの伝記本です。子供時代に船舶雑貨商に奉公し、その後武装商船の乗組員として働きながら数学者として世に認められていく過程が描かれています。 資料がないので、よくわかりませんが、彼の働きのおかげで後年海洋事故はだいぶ減ったのでしょう。

 

ナットは顔を輝かせて言った。

「見てください。これが数学です!きっと正しい答えが出るのです!」

プリンス船長は、ため息をついて言った。

「わかった、バウディッチくん。さあーーお願いだから、もう今夜は、これ以上新発見をしないでくれたまえ。」

「アイ・アイ・サー。」

ナットは笑って、また舷側に出た。    

本文より

 

 

☆作中用語について

・サレムーセイラム。アメリカ合衆国マサチューセッツ州エセックス郡に位置する都市

・測鉛(そくえん)―投げ入れて水の深さを測る器具。綱の先に鉛のおもりをつけたもの。

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出典:カズ・マリンプロダクツ   http://www.kazmarine.co.jp/product/hand_lead_lines

・六分儀(ろくぶんぎ)―天体上の二点間または二物体間の角度を測る、携帯用の器械。航海や測量に使う。

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・マライーマレー半島

・八点鐘、レコードーこの二つは調べてもよくわかりませんでした。

一応、船の部位などの名称の図をのせときますね。

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感想 

惜しいなと思うのは、物語の筋はドラマ性がかなりあって面白いのに、文章が端折りすぎ、急ぎすぎで盛り上がりや情緒がいまいち足りないものになってしまっているところです(´・ω・`)。よく言えば、かいつまんでいるので無駄なく端的にナサニエル・ボウディッチの人生の軌跡、いや航跡というべきか・・・が読めます。

難点をあげますと‥

・文章が、ややこしくてわかりにくいところがあります。

・さらに最初のほうは年月の経過による人物の加齢の計算がわかりにくいです。

・父さんが樽づくりの仕事をする、と宣言するシーンはあるが、その後の具体的な描写がない状態で「ナットは樽作りはあまりうまくない」と出てきても、状況がよくわかりませんでした。 

・前半、ナットが家族にある、理不尽なことをされるのに従順すぎて、腹立たしかったですね (`ε´)

 ・展開が急ぎすぎで、それぞれのエピソードが印象に残らないです。

 ・驚いたことに乱丁がありました。

皆さんは190ページまで読んだら、次は192ページを呼んでください。191ページと192ページの内容が入れ替わっています。読んでいて、どうにも話の整合性が付かなくなったので、よくよく読み直して気づきました。ゴーマン船長って誰?と思ったら192ページへ。

 

それにしても、ナットの身内がよく死にます。船に乗ってて死んだ人もそうじゃない人もいるけれど、当時は本当に船乗りの死亡率が高かったのだなと感じました。ナットが船での事故を減らそうと一生懸命になるのも納得です σ( ̄∇ ̄;) 

インドネシア人のことを土人と言ったりするところに時代を感じました。

 

素晴らしかったのは、ナットの知識欲をもってどんどん挑戦していく姿がいい(゚∀゚) です。見習いたいですね。知識欲を持った人の奮闘話というのは児童書として、最高のメッセージ性を持ったものになるので、理数系が好きな子供たちにはぜひ本書を読んでいただきたいです。

そして、ナットの乗った船のプリンス船長。ナットと船長の関係が素敵です。原書の題名にもなっている、「進め、バウディッチ君!」のセリフが心に響きます(*´∀`人):・:*:・

 

ナサニエル・バウディッチについては検索しても、本を探してもほとんど出てきませんでした。日本では名を知られていないようです。バウディッチ曲線のほうが本人より有名みたいです。唯一見つかったサイトです。↓

Nathaniel Bowditch

本書も、検索しても扱っているサイトはごく僅かでした。Amazonにも読書メーターにもない… L(゚□゚)」

なお、本書はかなり登場人物が多いです。一瞬だけ登場するわき役にもいちいち名前がついているので、普通に読んでいても、まず覚えられないと思います。これもこの本の欠点ですね。新しい名前が出るたびメモをして、そのメモを片手に読みましたよf:id:g-mccaghrean:20181218213307g:plain

 

☆そこでネタバレしない程度に、人物の名前と説明書きをのせときますね。読んでて人物名で混乱したら参考にしてください

大体登場順です。

 

子ども時代編

ナットー本作の主人公

ハブーナットより5つ上の兄

メアリーーナットより7つ上の姉

リザーナットの2つ上の姉

ウィリアムーナットの3つ下の弟

サミーーナットの6つ下の弟

おばあちゃん

イカーさん―近所の人?

トム・ペリィーナットが投機札を買った船乗り

スターンズ先生―医師

プリンス牧師―スターンズ先生の仲間

ホリヨーク博士―スターンズ先生の仲間

ジョン・ダービー船長―英雄

ベントリーさん―若く賢い牧師

 

奉公時代編

マイケル・ウォルシューナットに帳簿を教えた教師

ジョナサン・ホッジスー船舶雑貨店店主

ロウプスさんーロウプス・アンド・ホッジス商会の人

ベン・ミーカー悲観的な男

サム・スミスーナットに船と航海術について教えた

モリスさんーナットを家庭教師としてスカウトする

サミュエル・ウォードーナットの新しい主人

リチャード・カーワン―アイルランドの科学者

デビット・マーティンーメアリーが気になっている相手

フレデリック・ジョーディーナットにフランス語を教える

エリザベス・ボードマンーボードマン船長の娘

ボードマン夫人ーエリザベスの母

メアリー・インガソルーエリザベスのいとこ。あだ名はポリー。

ギボート船長―ベントリーさんの知り合い

ジョン・ジェイー英国と取り決めた条約を携えて帰国

 

事務員時代

エリアス・ハスケット・ダービーーヘンリー号の持ち主?

ヘンリー・プリンス船長―気性の激しい船長

コリンズさんーヘンリー号の一等航海士

チャッド・ジェンセンーヘンリー号の年取った乗組員

ダン・キーラーーヘンリー号の困り者

ジョーニーーヘンリー号のキャビンボーイ

ハービー―黒人コック

 

アストリア号関係者

レム・ハーヴェイー乗組員

ザック・セルビーーレムの義兄

アマンダ・ハーヴェイーレムの妻

トム・オウェンスー乗組員

チャーリー・ウォルドゥーキャビンボーイ

 

その他

ブラント氏―ニューベリィ出版業者

ゴーマン船長―エムバー号の船長

 

アストリア号2回目の航海

チーヴァースさんー一等運転士

タウソンさんー二等運転士

ループー乗組員

 

プトナム号関係者

ビリー・パーテルーキャビンボーイ

チャッド・ジェンセンーヘンリー号からの付き合いの老水夫

コリーーチャッド・ジェンセンの孫

デニーー乗組員

 

 

 

 

  • 個人的にやや気になったところ、ネタバレあり。反転

・ナットが奉公を始めてすぐに出会った、ベン・ミーカーがナットの身の上を悲観的に悲しむシーンがありました。それに対し、船乗りのサムとナットはかなり辛らつに追い払い、邪険にするのですが、そこまで言わなくてもいいのでは、と思いました。当時の時代からすると男の癖に弱気で情けない!ということなのでしょうか・・ ( ´△`)

 

 

・ナットの姉リザが亡くなった直後、友人のエリザベスがナットの様子をうかがいに来るのですが、その彼女に対し、ナットは心の中で、(もしエリザベスがリザのことでも口に出したら頭をかみ切ってやるぞ)とかなり攻撃的で、主人公とは思えないこと考えてます。別にエリザベスはナットに失礼なことや無神経なことをしたわけでは一切ありません (´ヘ`;)

 

・最後のほうで、霧の中、港に入港しようとするときに、コリーという若者がそれを危険だと騒いだという理由で殴って気を失わせたらしい描写があります。私は当時の船乗りのあり方なんて知らないので、当時はそういうものだったと言われれば何にも言えません。それにしてもそれまでの話でそんなやりとりの描写もなく、説明もないのでかなり唐突で暴力的に感じましたΣ(・口・)。児童書としてはちょっとどうかと思ってしまいます。

 

 

読んでいただき、ありがとうございました!