児童書のレビュー・考察ブログ

主に海外の小学生・中学生向け児童書の感想、考察をしています。

おとぎばなしはだいきらい ネタばれなし感想

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ジャクリーン・ウィルソン

偕成社

面白さ ★★★★★ 満点f:id:g-mccaghrean:20181205022501j:plain

メッセージ性 ★★★★★ 満点f:id:g-mccaghrean:20181205022501j:plain

ユニーク度  ★★★★★ 満点f:id:g-mccaghrean:20181205022501j:plain

 1991カーネギー賞受賞f:id:g-mccaghrean:20181216180039j:plain

 

内容 ママとはなれ、養護施設でくらすトレイシー・ビーカーは、やんちゃでパワフルな女の子。施設や里親家庭を転々としてきたけれど、いつかはママが迎えにきてくれるという希望をもちつづけている。ある日、取材にやってきた作家のカムと意気投合し…。笑いあり、涙あり、少女の視点で書きつづった物語。小学校高学年から。

 

 「あたしは、おとぎ話なんてだいっきらい。みんな、おんなじなんだもん。気立ての言い、長い金髪で巻き毛のすごい美人なら、灰をちょっとおそうじしたり、くもの巣だらけの宮殿で長いあいだねむってたりするだけで、王子さまがあらわれて、めでたしめでたし。そりゃ、たまたまいい子ちゃんで、魅力的ならいいよ。だけど、もし性格が悪くてブスだったら、そんなことあるわけない。」   本文より

 

感想 このお話は孤児ものに一応分類されると思うのですが、親のない子を扱った話としてはすごく斬新だと思います。そういう話によくみられる、「いい子が出てきて、苦労するけれど、けなげに耐え、いいひとに出会って幸せになる」という「お約束」を蹴散らして、わがままな問題児が出てくるんですから ( ゚∀゚)アレマッ。

 

トレーシーはすごくわがままで、自分の勝手さを棚に上げて人の悪口ばかり言うし、暴力はふるうし、反省はしないし(ノ∀゚*)アチャー、それはそれは厄介で、迷惑な問題児ですね。でも、自分がトレーシーと同じ、親にほっておかれてる子どもだったら、トレーシーの気持ちは、すべてよおくわかるし、自分も彼女に負けない問題児だっただろうなと思います。状況としてはすごく切ないはずなんですが、この本が暗くならず、ひたすら楽しいのはトレーシーの元気さによるものですね (^O^) 。

トレーシーの一貫した強がりも、明るさを忘れないところも本当に強いな、と感心してしまうくらい。基本、自分のやったことの反省をしない子なんですが、最後まで読むとトレーシーも、誰かに受け止めてもらいたかっただけだとわかります。

トレーシーの空想語りのシーンも、ユーモラスで楽しいですね。彼女がいい出会いに恵まれたのは、想像力の豊かさf:id:g-mccaghrean:20181217160317p:plainによるところも大きいのでしょう。

作家のカムが語る「雑誌の編集者は、かわいそうで思わずまもってあげたくなるようなきずつきやすい子どもたちの、ぐっとくるような感動的な話を期待しているの」というセリフには、作者のジャクリーン・ウィルソンさんがその手の話とは一線を画した、施設で育つ子の話を書きたいという意思が感じられます。そして見事にトレーシーという、個性豊かでユニークで本当にそこらにいそうな子を書ききったジャクリーン・ウィルソンさんはさすがです。本当にこの方はリアルな子供を書くのがうまいです。

ただ面白い本が読みたい人も、きれいごとや甘っちょろいお話が嫌いな人も、親を持たない子の気持ちに寄り添いたい人にもお勧めですf:id:g-mccaghrean:20181205022501j:plain

 ドラマ化もされていますが、残念ながら日本では放映されていません。トレーシーは結構イメージ通りです。


The Story Of Tracy Beaker: Series 1 Episode 1

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おとぎ話はだいきらい (トレイシー・ビーカー物語 1)

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