はるかなるわがラスカル ネタばれなし感想
スターリング・ノース
川口小吉/学習研究社1964
亀山龍樹/角川書店―1976 小学館―1994 ブッキング(復刊)―2004.11
1964年ニューベリー賞オナー賞受賞
面白さ ★★★★★ 満点
メッセージ性 ★★★★★ 満点
内容 北米の大自然の中、少年の出会った小さな生き物。だんだら模様のしっぽとビーズ玉のような目のアライグマの赤ん坊はラスカル(やんちゃ坊主)と名づけられ…。11歳の少年とあらいぐまの1年間の記録。
―ぼくの自転車は、この最後の三キロの下り坂で、ぐんとスピードをあげた。ラスカルは全神経を集中させ、顔にまともに六月の風をあびて、長いひげを耳のあたりまでなびかせた。そのときのぼくたちは、おそらく世界のだれにもまけずにしあわせだったろう。- 本文より
感想 ご存じ「あらいぐまラスカル」の原作。
動物ものの児童書として非常によくできた名作、傑作だと思います。面白さは抜群で、読み始めてすぐ引き込まれてしまったし、詩的な文章は美しく、心に響きます。
主軸である、あらいぐまラスカルはもちろん、スカンク、馬、カラス、ウッドチャックなど多くの動物の生態を事細かに描いていて、動物学の学術書としても素晴らしいですね オォ(*´∀`人):・:*:・。
主人公の豊かな感受性を通して語られる、当時の人々の暮らし、死別した母への思い、動物たちの生、自然の美しさ。
第一次大戦当時のアメリカということで、時々戦争の影がちらつくものの、暗くはならないです。
カヌーや、檻を自作してしまったり、地層学や天文学にも精通している主人公を見ていて、自分との違いに軽くショックを受け、にわかな向上心でもって、思わず本書に出てくる、よくわからない物や言葉を全部調べることに熱を上げてしまいました <( ̄∇ ̄)ゞ 。
子どもが本書を読んだら、もしかして私と同じように影響されて知識欲を持ってくれるかもしれません。
もちろん、作品を書いたのは50代の作者さんで、11歳当時の知識のまま書いているわけではなく、脚色もあるのでしょう。
ですが、作品の面白さや、文章の巧みさ、知識の造詣の深さを見ていると作者さんがこんな風に頭がよくなったのは、子供のころから知識欲とチャレンジ精神が旺盛だったことが大きいように思えて仕方ないんですよね。
主人公が、ところどころで自然の美しさ、素晴らしさに感動するシーンでは一緒に感動してしまったし、文章の端々に感じる細やかな感性はこちらの心を震わせるものがありました。
そしてラスカルが可愛いです。主人公が溺愛するのも無理はない。狂暴なイメージだったアライグマが、こんなに賢くてお茶目だとは知りませんでした(*゚▽゚*)。動物たちの人間的な感情が見れる楽しさもこの本の見どころの一つですね。
アメリカで出版された本の写真を見ると、作者さんは、大人になってからもあらいぐまとかかわり続けたようです。
出典:Wisconsin Natural Resources magazine
https://dnr.wi.gov/wnrmag/2010/12/north.htm
出典:Exodus Books
https://www.exodusbooks.com/sterling-north/623/
あとがきが全くない本なので、作者さんのことが知りたくなり、ググってみました。wikiによると10代の時小児麻痺で片脚に障害を持ってしまったらしいので(原作にも簡単に書いてある)このときも歩くことはできても本格的な運動はできなかったんでしょうね。
ついでにアニメのほうも見てみたら、長年の疑問が頭をもたげてきまして。
「ラスカルってあらいぐまというよりレッサーパンダなんじゃ?」
誰しもが思うであろうこの疑問も調べてみたら、アニメ版のwikiに
「放映版では目のまわりが白くなり、レッサーパンダに近い色合いとなった。」とありました。やっぱり。他のいくつかのサイトを回ってみたところ、本物のアライグマの色合いでは「可愛くない」ということになり、レッサーパンダっぽいラスカルになったようです。しかし、あらいぐまとレッサーパンダはかなり近いようなので、アリといえばアリなのか?
te-ge.blog.so-net.ne.jpラスカルの「チィチィ鳴く」というのはどんな声なんだろうと思ってyoutube見てみました。一番それっぽいかなと思えたのがこれ。
Raccoon Sounds Noises Baby Crying for Momma Victoria BC - Cute
かん高いですね。
ちなみにアニメではスカンクたちは狭いリンゴ箱に入れて飼っていた描写がありますが、本書によると、スカンクは金網で飼っていたようです。
「どこからな犬が迷いこんできて、金網ごしにスカンクたちにほえたりうなったりした」(25P)
219ページに出てくる、ご馳走のハバードスクワッシュとは大きめのカボチャで水分が多くて甘みが少ないそうです。あまりおいしくなさそう…
ヒッコリーの実の詰め物をしたロースト七面鳥も気になりますが、このヒッコリーの実というのはピーカンナッツのことらしいです。ピーカンナッツはお菓子に使うイメージでしたが、七面鳥に詰めたりもするんですね。どんな味なんでしょうね。
ところで、私は本書の存在は知っていたのですが実は、長いことちょっと敬遠してまして、読まず嫌いでした。
私は動物が人間のせいで傷ついたりいじめられる描写のある本が大の苦手で、フランダースの犬とか絶対読みたくない派なんです(>Д<) 。
昔の本というだけで、昔の動物もの=動物が死んで泣かせる、みたいな先入観もあって、この本を警戒してました。
で、読んでみたらやっぱり最初のシーンは、嫌悪感すごく感じましたね。アニメと違って、ラスカルはママあらいぐまが殺されるのではなく、主人公が興味本位であらいぐまの巣を荒らしてラスカル一家を捕まえようとし、ママとラスカルの兄弟は逃げて、逃げ遅れたラスカルを捕まえて飼う、という何とも最悪に胸糞悪い開幕でした。これに関してはスターリング(主人公)を許しません (`ヘ´#) 。人間の勝手で母親から子供を引き離すなー!ヽ(#`Д´)ノ生態もよく知らないくせに面白半分に飼うな!
アニメラスカルの影響で、あらいぐまを人懐っこいと思った人たちが、あらいぐまをペットにした挙句、その凶暴さに書ききれなくなっての山に捨て、野生化したアライグマが害獣として駆除されるという悲劇もあったらしいですね。なんて勝手な話だろうとやりきれなくなります。本当に動物を飼うときはその動物の生態をよく調べるべきだと思います。(※今はアライグマはペットとして買うことは法律違反になるらしいです)
が、胸糞悪いのはここだけで、後は特にラスカルが可哀そうな目にあうことはさほどなく、主人公はラスカルをそれはそれは可愛がるのでまあ許せました。
仲良しの馬の鼻を撫でるラスカルとか、ほんとに可愛いっ💛微笑ましい(〃∇〃)
あー、いい本だった。
結局すっかり本書とラスカルのファンです。
ラスカルが夢中になったサトウモロコシ
作中に出てくる、イヌハッカとは「西洋マタタビ」と呼ばれる植物で、猫が興奮する作用があるらしいです。↓
wikipedia掲載画像 作者Jon Sullivan
1969年にされたディズニーでの映画化
"Summer Sweet" - theme from "Rascal" (1969)
日本語版DVDは未発売