ふくろ小路一番地 ネタばれなし感想
イーヴ・ガーネット作
石井桃子訳
1937年カーネギー賞受賞
面白さ ★★★★☆ 4点
メッセージ性 ★★★★☆ 4点
にぎやか度 ★★★★★ 満点
内容 ふくろ小路一番地に住む、子だくさんのラッグルス一家の物語。長女がお客さんの洗濯物をちぢませてしまったり、ふたごの男の子たちが少年ギャングに入って冒険にのりだしたり、下町の家族はいつもゆかいな事件でにぎやかです。小学5・6年以上。
感想 物語は終始単純でひねりもなく、予定調和と言っていいくらいだけれど、楽しい(^O^)。
全体的に一家の明るさや、まっすぐで素朴な生き方がこの物語を楽しく愛すべきものにしています。
このブログでも以前レビューした「モファットきょうだい」シリーズのイギリス下町版といった趣き。
個人的には双子のジョンとジムが街の少年ギャング団に入る話が児童書らしくて面白かったですね。
本書のカバー袖の作者紹介欄には、この本が「子供にはふさわしくないとして8つの出版社から刊行を断られた」とありますが、最後まで読んでも別に教育に悪そうな記述は見当たりませんでした。
しかし、確かにイギリスの古典の児童書は「メアリーポピンズ」、「小公女セーラ」やネズビットの「砂の妖精」シリーズなど上流階級の人たちのお話がほとんどでしたよね。「秘密の花園」でも序盤こそ女中のマーサの存在感が感じられるけれど、やはり物語の中心になるのはお屋敷の富裕層だ、という指摘もあります。
訳者あとがきにもありますが、この時代に労働者を主人公とした児童書はかなり珍しかったのですね。
というのも、「愛と戦いのイギリス文化史」(慶応義塾大学出版会)によると、20世紀初頭は、識字率が上がり、それまで富裕層の文化だった読書習慣が労働者階級にまで普及しだした時だったらしいです。(P22 参考)
本書が出版される2年前の1935年はペンギン・ブックスという、ペーパーブックの元祖のような、安くて手軽に手に取れる大衆向けの娯楽小説が登場しました。ペンギンブックスは人気を博し、それまで貴族や富裕層のための物だった本が一般大衆に広く読まれるきっかけにもなりました。(P52)
そういった読書の大衆化は「読書趣味の低俗化」を招き、「大衆の悪趣味に迎合」しているものという批判も一部にはあったようなので(P22)本書が刊行を拒否された背景にはそういった当時の見方も関係していたのでしょうね。
読んでいただきありがとうございました。