からすが池の魔女 ネタばれなし感想
エリザベス・ジョージ・スピア作
1959年ニューベリー賞受賞
面白さ ★★★★★ 満点
メッセージ性 ★★★★★ 満点
話の重厚さ ★★★★★ 満点
内容 バルバドス島生まれの少女キットは独立直前のニューイングランドに渡るが土地柄になじめない日々を送る。そんなある日、からすが池のあやしい女、魔女のハンナ・タバー出会い心の安らぎを得るが、ふたりは魔女の嫌疑をかけられてしまう。
キットがじっと見つめると、老婆がしゃがれた小さな声でいった。
「よく草原にきましたね。心に悩みがあれば、この草原がいつも救ってくれるのです。」
キットは動けないほどびっくりしてしまった。 本文より
感想 この作品、男性、特に中高生の男子は最初のほうちょっと頑張って読んでもらう必要があるかもしれません。でも読んでいけば、男の子でもきっと面白いですよ
そんなわけで読み始めは、ヒロインと相手役の出会いからして「王道な少女漫画」という印象が強いです。
やたら登場人物の容姿に言及するときの文章も、なんか女性的に感じまして、少女漫画や恋愛映画が苦手な自分は早くもテンションが下がり気味でした。
でも読み進めると、
・文章は簡潔でわかりやすくテンポがいいし、
・冒頭からすぐそれぞれがどんなキャラクターかわかるようになっているし、
・主人公キットの完全な一人称視点なのに、他の登場人物たちの心の動きや成長がちゃんと伝わるうえ、
・ストーリー展開が巧みで、引き込まれました。
要するによくできていて面白い(゚∀゚)。
そして舞台が村に移ると、少女漫画要素は影をひそめ、本作は重厚な歴史小説であり、完成度の高いヒューマンドラマであることがはっきりします。
ニューベリー賞優勝も納得ゥン((^ω^ )ゥン。
作者さんは本作品のほかに、1962年に「青銅の弓」でニューベリー賞を優勝し、1984年に「ビーバー族のしるし」でニューベリー賞オナー賞を受賞しています。
- 作者: エリザベス・ジョージスピア,Elizabeth George Speare,こだまともこ
- 出版社/メーカー: あすなろ書房
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: ハードカバー
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「ビーバー族のしるし」の感想はこちら。
こちらもとてもいい作品です。そのうちレビューするつもりです。
以下、ネタバレ反転 長々自己満足に感想語っています
ヒロインの人物像が、「正義感が強くてまっすぐ」といういい面だけでなく、いつでも思い付きのままに行動しちゃうところや、ジョンの呼んでいた本を取り上げて読んじゃうところなど、リアルな欠点を持たせているのはキャラの造詣が深くて素晴らしいですね(´∀`)。
ナットも皮肉っぽくて感情的になったりするんだけど、でもきちんとヒーローとして納得できる魅力があるし、レイチェルおばさんやマシューおじさん、マーシィやジュディスも実際にいそうな人間臭さを持っていて、作者さんの人物描写のうまさを感じます。
キットの心が折れてから、ハンナに会って励まされるくだりもとても自然な話の展開。
おばさんに「もうハンナに会いに行くな」と言われても、反抗して自分を貫く、まっすぐなキットが好き(≧∀≦)。
ジョンがマーシイのことを好きだと知って、キットが大喜びするところはちょっと印象的でした。こんなに人の恋路を親身になって喜べるってなかなかできることじゃないような。キットはいい子だなあ。
キットがウィリアムに対して思う、「こっちへ歩み寄ることもしないのに彼氏面する人」っていう白ける気持ちもわかるんだけど、ただウィリアム側に立ってみると、思わせぶりにしてきたキットの態度もちょっと酷なのでは、と思いました。10代というキットの年齢を考えればまあ、普通ではありますが。
それにしてもアメリカの250年の間にずいぶん変わったんですねえ!
読んでてびっくりした当時のアメリカの描写
・おしゃれは信仰を惑わす虚栄心につながるのですべきではないΣ(・ω・ノ)ノ!
・ハロウィンはカトリックの文化で当時、この地域では祝う風習がなかった
・礼拝に行くことはほぼ義務で、いかないと罰金をはらわなければいけない
・娯楽は年一回のトウモロコシの皮むきパーティ程度。
今のアメリカと全然違う!こんなところに住みたくないです。キットはよく頑張ったよ!
後半のハンナとキットに起こる魔女狩りは色々なことを感じました。
ウェザーフィールドの人たちがしたことはそれはひどいし、ハンナはもう少しで殺されかけ、キットだって悪くすれば、耳を切り落とされたりしかねなかったわけで、すごく非人道的だと思います。
が、一方で昔の人が、迷信深いっていうのはこれはもうしょうがないというか、今みたいに病気の原因も解明されていないし、教会が力を持っていて、「災いは魔女の仕業」とか堂々と言うわけですから、恐れの感情でもって「魔女狩りだ、異端審問だヽ(#`Д´)ノ」となってしまうのが理解できるんですよね。
私はすごく臆病なので、もしこの時代に生きていたら、ハンナやキットを疑ったかもしれないなあ、とかも考えてしまいます。
まあ、プルーデンスのお母さんとかはただただキットが憎かっただけだと思うけど。
それでハンナを助けて不安な一夜からのイルカ号にはほんとに嬉しくてホッとして、キットが泣きながらナットに経緯を話すところでは一緒に泣いてしまいました(ノД`) グスン。
ご都合主義と言えなくもないけど、お話はこうじゃなくちゃ、と思います
裁判でもどうなることかと思ったけど、意外な展開でした。
キットが、プルーデンスとハンナを会わせたり、字を教えたことを後悔したことや、ハンナに会うなと言っても聞かなかったことをマシューおじさんに「軽率」と言われるのは悲しかったですね。
私から見れば、おじさんたちはハンナに直接的に危害を加えるようなことはしなくても、差別感情と偏見はあったわけです。
でもキットは偏見がないまっすぐな性格でただハンナを好きになり、プルーデンスのためを思って行動しただけなのにそれを後悔しなきゃいけないなんておかしな話です!最後にはキットのやってきたことの正しさが証明されてよかった、よかった(*´∀`)
プルーデンスパパの独立宣言には晴れ晴れとした気持ちになりました。
ジュディスとマーシィの縁談がまとまる流れはあっさり省略されてたけど、まあ話的には綺麗にまとまっているのでいいです。ただ今だと、結婚が女性のゴールといいたげな展開には抵抗を感じる方もいるかもしれないですね。
個人的にはみんな幸せだし、いいかなという感じ。
ラストの大団円でめでたしめでたし(゚∀゚ノノ゙パチパチパチパチ。
原初の表紙が素敵なので載せておきますね。
キットが来てるピューリタン教徒の礼服が可愛い
読んでいただき、ありがとうございました!