児童書のレビュー・考察ブログ

主に海外の小学生・中学生向け児童書の感想、考察をしています。

魔女の猫ウォーム ネタばれなし感想

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ジルファ・キートリー・スナイダー作

富山房(※絶版してます)

1973年ニューベリー賞オナー賞受賞f:id:g-mccaghrean:20181205020107j:plain

面白さ ★★★★☆4点

メッセージ性 ★★★★☆4点

 

内容 母と二人暮らしの少女ジェシカは、猫の子をひろいウォームと名づけた。ウォームには子猫のかわいらしさが全くみられない。やがて猫はジェシカの心を読みとり、ジェシカが魔女であると語りかけるようになる。不安が大きく広がる。

 

「ところが、ウォームは飛び降りて逃げるどころか、くるりと頭をまわして、ジェシカを直視したのだ。だからジェシカは驚いて―ほとんど恐怖を感じて―息をのんだ」 本文より

 

感想  なんとも不思議な魅力を持った本です。少女のころに、魔女や不思議な力に憧れたことがある人は多いと思います。魔女っ子のアニメはいつの時代も人気がありますね。

 

主人公、ジェシカの12歳という年齢は、その魔女や不思議な力へのあこがれから、ちょうど卒業する年ごろではないでしょうか。そのころになると、女の子の興味の対象は子供っぽい心霊ごっこや魔女ごっこよりも、おしゃれや恋や流行の歌などに移っていく場合がほとんどでしょう。そんな心の大きく揺れ動く年頃に、ジェシカは友達もおらず独りぼっちです。お母さんはボーイフレンドとのデートで留守がちです。そんなときに、不思議で不気味な子ネコ、ウォームと出会うんですね。

読んでいて、その独特の緊張感をはらんだ文体に引き込まれ、ついついページをめくる手が止まらなくなります。次は何が起こるんだろう、ウォームは何者なんだろう、とハラハラさせられます(*゚▽゚*)ワクワク魔女のような不思議なおばあさんや、けんか別れしてしまった変わり者の幼馴染など、登場人物も癖が強くて、この作品の独特の世界観を作っています。

物語は基本、ジェシカの一人称で語られていて、物語に常に漂う、不吉な雰囲気は、孤独で不安定なジェシカの心そのものを現しているのでしょう。

思春期の頃に、自分で自分の感情を制御できなくて戸惑った経験のある人、魔女が好きだった人、あるいは、今まさに多感な年ごろで、孤独を感じている人はジェシカに共感できるのではないでしょうか。

 全然可愛くないウォーム↓ こう見えて子ネコです

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魔女の猫ウォーム (1977年)

魔女の猫ウォーム (1977年)

 

 

作者さんは、1972年にも「首のないキューピッド」(絶版)でニューベリー賞オナー賞を受賞しています。

 私の感想はこちら。

 他に、「ビロードのへやの秘密」もとても面白い本ですよ!

ビロードのへやの秘密 (Best choice)

ビロードのへやの秘密 (Best choice)

 

 

以下ネタバレの感想注意です!考察してます

 

 

 

 

あとがきにもありますが、ウォームの正体は結局、魔女の猫でもなく、ただの猫ということらしいのですが、どうなのでしょうか。私はいくつかの、解釈を考えました。

ジェシカは孤独なあまり、不思議な力を身に着けて、魔女の猫、ウォームの声が聞けるようになった。(映画「キャリー」のように、孤独な子供はしばしば超能力を身に着けるという話を聞いたことがあります。)

ジェシカの思春期からくる、自分で制御できない、心の奥のもう一人の自分の声をウォームの声として聞いていた。

③孤独ゆえに、心が病んでしまい、分離して、暗い心の声をウォームの声として聞いていた

 

ジェシカは、お母さんのドレスをダメにしたり、幼馴染の大切なトランペットを故意に壊したことを、自分のせいじゃないと言い張ります。これらをすべて、ウォームのせいにしていました。ここら辺は、思春期に自分で思いがけない、悪いことを言ったりやったりしてしまい、自分自身に戸惑うティーンエイジャーのよくある姿に思えるんですよね。

思春期って、思ってもないことを言って人を傷つけたり、馬鹿な事したりするじゃないですか。後になって、なんであんなことしたんだろうって思うような。自分自身でも説明がつかないんですよね。自分自身のこともわからず、分かり合える人もいなくてすごい孤独感を味わったりして。この本に書かれているのはそういうことかな、と思いました。

ジェシカはそれまで、自分のやったことの責任を回避してきました。全てはウォームが自分にやらせたこと、彼は魔女の猫だから、とトランペットを壊した時も、おばさんをだました時もウォームの罪を押し付けています。しかし、ウォームを失いかけたその時、初めて自分の責任を認めました。

創造力豊かで空想家のジェシカが、自分の責任を受け入れ、魔女ごっこ、空想遊びを卒業して現実に足をつけたのです。それは大人への第一歩を踏み出しだしたということでしょう。

ようするに、ジェシカの青春、ということですね。

 

あくまで私の個人的、勝手な解釈なので正解はわかりません。けれど、正解が何であれ、作者さんは、12歳の孤独な少女の心の明暗をとても見事に描き切っていると思います。