月の光を飲んだ少女 ネタばれなし感想
ケリー・バーンヒル 作 佐藤見果夢 訳
評論社
2017年ニューベリー賞受賞
面白さ ★★☆☆☆ 2点
メッセージ性 ★☆☆☆☆ 1点
内容 悲しみにとざされた町がありました。毎年、赤ん坊を生贄に捧げなければならないからです。森には悪い魔女がいて、赤ん坊を差し出さなければ町の人は皆殺しにあう、と信じこまされてきたのです。しかし、本当は善良な魔女ザンによって赤ん坊は救われ、ほかの町で幸せに暮していました。ある時、助けた赤ん坊の愛らしさに見とれたザンは、うっかり月の光を飲ませてしまいました。ルナと名づけられた少女はザンに育てられ、やがて不思議な力を示すようになります。
感想 結論から言うとかなりいまいちでした(゚~゚)。
まず、いいところから言うと
・出だしがいい。謎の語りとか、魔女とかいけにえとか、すごくワクワクしました。これは秀逸でした。
・魔女の話をしているのは誰なんだろう、という謎が気になって読み進められた
悪い点 ここから先は、本書が大好きだという方が読むと不快になる恐れがあります。かなり辛口です。ご注意!
とりあえず要点をあげて後述で詳しく解説していきますね。
①伏線と謎があまりに膨大過ぎ、詰め込みすぎで、混乱する。視点となる人物がや時系列がころころ変わるのでさらに混乱する
②無駄なセリフや場面が多すぎる
③急にざっくり時間が進んで、どのくらいたったのか、わからないこと
④ファンタジー小説に必要不可欠な「夢」が感じられない。
⑤話やキャラクターの行動に矛盾点や不可解な点が多すぎる
⑥主要人物に感情移入がしづらい(※個人の感想です)
⑦無駄に不快にさせられるシーンがいくつかある
⑧一番盛り上がるべきところで盛り上がりきれていない
解説。 ※思いっきりネタバレしてます。
①伏線と謎があまりに膨大過ぎ、詰め込みすぎで、混乱する。視点となる人物がや時系列がころころ変わるのでさらに混乱する。
基本、物語というものは、伏線が複数あったとしても、最終的にはそれがつながっていくというのが醍醐味だし、伏線の使い方で物語の出来不出来も違ってきます。
何本もの毛糸が絡まっているように見えた毛糸玉が、ほどいてみたら長い一本の毛糸でできていた・・というのが伏線の一番気持ちいいあり方です。
けれど本書は伏線と謎があまりにも多すぎます。毛糸玉をほぐしてみたら、短い何十本もの毛糸がからんでできていたって感じ。
例えば・・
・魔女の話をする謎の語り手
・ルナの額の三日月の謎
・ルナが月の光をのむ前からザンが調子が悪くなったのはなぜか
・竜の子フィリアンとザンの関係、過去
・フィリアンが大きくならない理由
・ザンが石の扉の中に城があることをなぜ忘れたのか
・狂った女の紙の鳥の能力の謎
・フィリアンはなぜ、日に日に若返っているのか
・ザンが魔法の実験台にされたことで、魔法を使えるようになったという過去
・29章の「山のお話」が、本筋とどうつながっていくのか
・221ページでグラークが語る、「魔術師」とはだれか
・魔女がトラの心臓を食べて以来、魔女の体にはトラの心臓がある
大きいものをざっと挙げてもこれだけあります(´‐` ;)。細かい伏線も入れたらもっと多いです。
乱立する伏線にだんだん混乱してきて、覚えきれなくなりました。かなり話が散らかっていてまとまりがない印象を受けました。(そして謎の多くは、答えが示されないまま終わる・・・。)
それらは、物語の中に読者を引き込むもののはずですが、なかでも大事な「引き」として扱われている、フィリアンの小ささとか、ルナの魔力の発現とかがいまいち「引き」としての魅力に欠けます。
「愛嬌振りまく泣き虫竜は、そのうち大きくなって立派になりますよ」とか「川の水をケーキに変えられる魔法がまた使えるようになりますよ。」とか言われてもねε-( ̄ヘ ̄)┌。
竜や魔法に、あってほしいはずの未知さとか、神秘性が本書においては全くないんですよ。描かれ方が陳腐でこちらの想像を超えてくれないので、期待する気持ちが沸かないです
②無駄なセリフや場面が多すぎる
・アンテインが星の修道会の給仕や、長老見習いをするエピソードは必要だったのでしょうか。結局アンテインのサクセスストーリーにも、成長物語にもなっていません。蛇足としか思えない。
シスター長イグナチアや、エサイン、長老との絡みをみせるためだとしたら、逆に修道会をやめさせずにそこから話が進めばいいだけです。
・120ページのルナとグラークがコオロギの話をするシーンで、「けれど心から感心するわけにはいかないのだ。それを許したらグラークの心が膨れ上がって、この世の果てまで飛んで行ってしまうから。」
( ゚Д゚)は?
意味がわかりません。ここは最後まで分からないまま。ここでグラークに感情移入できなくなりました。
・21章、結局フィリアンの見た、奇妙な光景はどこだったのか。夢だったのか不明。
・そのほか、作者の癖なのか、言葉を重複させて使うときがあって、違和感を感じました。
③急にざっくり時間が進んで、どのくらいたったのか、わからないときがある
・例えば、14章で、ルナの魔法を閉じ込めてから、「時計のように正確に時を刻み、十三歳の誕生日に向かっている」と書かれていたので、「あれ、もう間もなく十三歳になるのかな、展開早いな」と思いました。
しかし、どのくらいかはわかりませんが、まだ十三歳までは時間があったようです。文章がややこしいですね(+。+)。
・ルナママがとらわれてからの13年間を16章と18章と26章と31章で時系列ばらばらに時間を行きつ戻りつして語ってます。なんでこんなにめちゃくちゃな順序で語る必要があるのでしょう。謎の種明かしがあるにせよ、その部分だけ後で語れば済みことです。時系列順にじっくり語ってくれれば感情移入しやすいし、わかりやすいのに、と思いました
④ファンタジー小説に必要不可欠な「夢」が感じられない。
本書の中で、魔法とは大きく分けて3つの形があります。
一つ目は月の光をのむと魔法の力を得ること、
二つ目は七里の長靴
三つめは、魔法の力は、川が上流から下流に流れるように、若いものに流れていくこと。
・これらの設定で夢があるな、と感じられるのは①の月の光の設定だけ。月の光は魔法そのものというのは、納得できるし、それを飲むと魔力が得られるというのは面白いです。
でも他の二つは、いまいち夢がないと感じます。
・世界の端から端まで行ける、七里の長靴について。
他の魔法使いから魔法をかすめ取ることが出来たり、空中や月からも魔法が取れる長靴…。
面白くないです(。-`ω-)。
長靴ってところが、かっこよくもおしゃれでもないし、特に長靴の魔力の設定に創意工夫があるわけでもない。紙の鳥もそう。
それでもせっかく、そういう設定出したなら、主役に使わせればいいのに、なぜか長靴の力をものにするのはお母さん。
ええ・・(゚Д゚)。なんでそこでルナに使わせないかな。脇役に大事な小道具使われても燃えないのですが…。
・三つめの魔法の力の流れについてはどういう原理か知りませんが、「そういうもんなんだ、へえー」以外の感想が出てきません。
ルナが初めて意識的に使う魔法というか、まじないの手順も夢がないと思いました。
つばと土を混ぜた泥に草を浸すって・・・。
文字通り泥臭いです。もうちょっとファンタジックなものにできなかったのでしょうか。
⑤話やキャラクターの行動に矛盾点や不可解な点が多すぎる
・どうして天地創造の神であるグラークがザンやフィリアンたちと暮らすことにしたのか説明がないので、グラークにとってザンファミリーがどんな存在なのかわからないです。
フィリアンとグラークは途中まで存在意義がわからないくらいで、お付きのカラスの登場でますます影が薄くなった感が出た後に、ザンを追いかけ始めたからちょっと展開に期待したけど、ザンの命がかかっている割に、二人に緊張感がないので、盛り上がりに欠けますね。
そもそもグラークは、エピローグまで、活躍らしい活躍をせず、物語は基本彼がいなくても支障なく成立するので、彼の存在は蛇足です。
・ザンは「私は死ぬ」と言ったり「死なないかも」と言ったりで言うことちぐはぐです。
・ルナママは、魔法が使えるのに、ルナに会いに脱走するまでなんでそんなに時間をかけるのでしょうか。
まだ、魔法の力をちゃんと使えるようになるまで、時間が必要みたいなことは言っていたけど、それにしたってのんきで、アンテインの人生を見守ったり、過去を回想したりしていて、生き別れた子供と会いたがる必死さが感じられません。よってルナママに感情移入できません。
・魔女の話の語り手が、ルナママの母親なら、語り手は三日月のあざの家系だと思われます。
いけにえに捧げたはずの子どもが見えるとか言ってたし、何らかの力は使えなかったのですかね。なんか人間視点で魔女のことを語ってますけど。
確かに、ルナママが魔法を使えるようになったのは、ルナを奪われて気が狂ったせいだと言ってたけど‥‥。でも・・・・そんなんいちいち覚えてないって
ただでさえ、伏線と謎が多くてこの話ややこしいんだから。私も何度も読み返してやっとここわかりましたよ。
それで結局、三日月形のあざがあるとどうなるのか、そこははっきりとはわからずじまいだし。
・エサインとアンテインの赤ちゃんをいけにえにするしないの攻防戦のところで、星の兵士がなぜかいきなりエサインに従順になり、ウィンも絶対的な味方になるという、強引な展開。いきなりのエサイン無敵展開が意味わかんなすぎて、ついていけないです。
・35章で、イグナチアは、「魔法使いや学者たちが死んでしまったのは残念だった」と思っていますが、彼らが「死ぬに任せた」のではないですか?どっちなのかはっきりさせてほしいものですね。
・39章、アンテインは唐突に根拠もなく、ルナをみて魔女だと決めつけてます。暗くて遠目だったとしても、13歳の女の子か、魔女かくらいは歩き方とか身長でわかりそうなものです。ろくに見もせず魔女と決めつけたとしたら、アンテイン、馬鹿すぎ、浅はかすぎ┐(゚~゚)┌。
ドラマティック演出のためとまるわかりのご都合展開にげんなり。
アンテインは優しくて感情移入できそうなキャラだと思っていたのに…。
⑥主要人物に感情移入がしづらい(※個人の感想です)
17章のルナ、「詩人なんて嫌いよ!釜茹でにしてやりたい」
なんでいきなりそんなに怒ってるんですか( ´△`)?
ルナを短気だと感じるシーンはほかにもあって、作中ではみんながルナに隠し事(魔法のこと)をしているからルナがいらいらするらしきことも書かれていましたけどね。それがルナへのこちらの感情移入を邪魔していました。
⑦無駄に不快にさせられるシーンがいくつかある
ザンたちの家のヤギとニワトリ、死んだんですね…。サラッと流してるけど、この死に意味はあったのでしょうか。児童書で無意味に動物を死なすのはどうかと思います。
⑧一番盛り上がるべきところで盛り上がりきれていない
クライマックスに向けて全員集合っぽい展開にちょっとわくわくはしました。
しかし、期待のクライマックスも気になる粗がありすぎて、物語に没頭できないです。
・怒涛の感動シーンとか期待したのですが、いざ、集合してみると全員そろわず中途半端感を感じてしまったし、設定を詰め込みすぎたせいで、ザンとルナとアンテインの会話がすごく説明的になってます。そのせいでかなり話の勢いがそがれていますよ。そして親子再会の感動はかなり期待外れ(´-ω-`)。
・ルナママは、ルナに会う前は、女の子でどこにいるかまで分かったのに、なぜかルナに会ってもわが子とわからない。
・イグナチアとの決闘シーンでの「あいつの中に、まだ人間らしい部分が残っている」はかなり萎えました。
だって500歳を超える魔女ですよね?これまでとてつもない年月を魔女として生きてきたんですよね?昔話の中で世界を滅ぼそうとしてましたよね?
何をいまさら・・・。キャラがぶれすぎ。
・そして、いまだルナが一人で魔女に立ち向かえず、ザンやみんなと協力しないと倒せないというのは残念すぎ。
ここでルナが、魔法の使い方をザンに教わるにしろ、イグナチアと一対一で決着つけてくれれば燃えたし、かっこいい展開だったのに。
さんざん、これまでルナの魔法の力がいかに大きいか、語ってましたよね?
三日月のあざとか、月の光は魔力そのものとか、押さえつけられたルナの力の目覚めについて引っ張って、じらしてきましたよね?
ザンの生命力や魔女の力を取り込んで、500歳越えの、ほぼ不老不死だった彼女らを弱らせていましたよね?
ここまで来て、いまだラスボスとタイマン張れないんですか?
あまりに残念過ぎる(゚Д゚)!
これまでのあらゆる引きが無意味になった瞬間です。
・そしてエピローグ。
主にルナの、「愛、愛」の連呼が執拗でくどいし、ザンの死が冗長だし、グラークとザンのが沼地にいくとか、唐突にいわれても、ピンとこないし。
とか思っているうちに終わりました('A`)。
やっと読み終わった、という感じです。
総括
本書がどんな本かと聞かれたら、「ごちゃごちゃしたがっかりな出来のファンタジー」と答えます。
本書がなぜ、ニューベリー賞を優勝できたのか、さっぱりわかりません。
読んでくださってありがとうございました!