リンカン アメリカを変えた大統領 感想
金原 瑞人訳
1988年ニューベリー賞受賞
面白さ ★★★★★ 満点
メッセージ性 ★★★★★ 満点
内容 丸太小屋からホワイトハウスへというアメリカン・ドリームを体現した大統領の努力と栄光そして苦悩。アメリカの変革の歴史を重ねあわせ、豊富な写真・図版で構成。
「わたしは奴隷になりたくありません。だから奴隷を使う身にもなりたくないのです。」リンカンはきっぱりといった。「これこそ私の考える民主主義であります。これからはずれるものは、それがどのようなものであれ、もはや民主主義とはよべません。」
本文より
感想 恥ずかしながら無知なので、リンカンに対する知識はほとんどありませんでした。同じニューベリー賞の「奴隷とは」だったと思うけれど、当時の黒人たちが「リンカンだって結局俺たちのことを考えてくれちゃいないのさ」といっていたという逸話がとても印象に残ったくらいでした。
その印象のため、児童向け伝記にありがちな偉人持ち上げ書じゃないの?というややうがった見方から読み出しました。
まず感じたのは、やっぱりのちの大統領となる器の兆しとして、リンカンの努力、野心家、前に出るタイプ、勉強を惜しまない、他者に対して物おじせずすぐ打ち解けるといった点を感じました(。 ・ω・))フムフム。
やはり行動力が違います。
当時、奴隷制を否定する人は、頭がおかしいと思われることさえあり、反対を表明することは多くの政界での支援を失い、政治家として息詰まる可能性さえあったのに、信念のもと行動するリンカンはやはりすごいですね。当時の世論の中で、黒人の権利を主張するなどということは、下手したら自身も黒人の味方として扱われ、日常的な暴力や中傷にさらされる危険があったはずです(+。+)。
途中でリンカンが対立する、スティーブン・ダグラスの主張、「アメリカ憲法で保障している権利というのは白人のみに適用されるもので黒人には適用されない」「黒人が平等な権利を持つことには反対」というのは、後世の私たちからするととてつもなく非人道的で偏った差別主義者だと感じられます。
実際その通りだとは思いますが、当時の実情として、黒人差別の背景というのがありました。
- アフリカ人はキリスト教を知らない野蛮人、その野蛮人を文明化させ、キリスト教を教えたことは正しいという思想。
- アメリカにいる黒人のほとんどが教育をまともに受けなかったこともあり、粗野で教養がない傾向があった
- 聖書のノアの箱舟伝説で、ノアの息子ヤペテの子孫は白人(コーカソイド)、ハムの子孫は黒人(ネグロイド)、という俗説がある。父親想いのヤペテに比べ、ハムはノアに逆らった「呪われた息子」と言われ、悪人扱いだったこと。
これらのことが、黒人差別の正当化に拍車をかけていました(´・ω・`)。
南部などは奴隷の労働力に頼り切っていたので、その制度をなくすと、様々な弊害を生む恐れもあったでしょう。
南北戦争中は、戦況は遅々として進まず、死者ばかりが増えて、内外からの批判が高まる中決断を下していくのは相当なプレッシャーだったと容易に想像できます。大きな決断を下すには強い信念があってこそなのですね。
読んでいただき、ありがとうございました!