児童書のレビュー・考察ブログ

主に海外の小学生・中学生向け児童書の感想、考察をしています。

ガラスの家族 ネタばれなし感想

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キャサリン・パターソン作   岡本浜江 訳     

偕成社

1979年 ニューベリー賞オナー賞受賞f:id:g-mccaghrean:20190818105655j:plain

面白さ ★★★★☆ 4点

メッセージ性 ★★★★☆ 4点

 内容 里親の間を転々としてきた11才のギリーは、したたかな少女だった。愛されることのなかった少女が初めて知った家族とは。

感想 良作でした!

やはりパターソンは「巧い」作家です。

簡潔でわかりやすい文章と物語、しっかり確立されているキャラクターの個性f:id:g-mccaghrean:20190818120920j:plain

 

そして主人公ギリーは、いい子とは言い難い問題児なのですが、それでも嫌いになれないし、ギリーがどうなっていくのかが気になってどんどんページを進めてしまう作りになっています。

シリアスなヒューマンドラマが好きな方にお勧めです!

 

ガラスの家族 (偕成社文庫)

ガラスの家族 (偕成社文庫)

 

 2016年に映画化されています。トロッターさんの役は「タイタニック」のモリー・ブラウンや、「ミザリー」で有名なキャシー・ベイツさん!


『ギリーは幸せになる』予告編 ビデックスJPで配信中!

ちなみに同作者さんは、ニューベリー賞の常連作家で、他にも1978年に「テラビシアにかける橋」でニューベリーオナー賞を1981年に「海は知っていた―ルイーズの青春」でニューベリー賞優勝を受賞しています。

 

テラビシアにかける橋」はディズニーによって2007年に映画化もされているけっこう有名な作品。

テラビシアにかける橋 (偕成社文庫)

テラビシアにかける橋 (偕成社文庫)

 

 私の感想は こちら。

 

 

以下ネタバレ反転。

 

ギリーのやり口である、「人の弱点を即座に見抜いて、相手をぬか喜びさせた後、意図的に突き落とす」という悪意は、ノンフィクション作家トリィ・ヘイデンの本に出てくるような虐待された子供のそれなんですよね。

それに気づいた途端、すごく悲しくなってギリーを一切悪く思えなくなりました(ノД`)。

ギリーは、虐待までされたことはないかもしれませんが、同じように悲しみや寂しさを秘め、愛情に飢えた子供なんですよね。

ギリーのキャラクター造形はきれいごとなしで真に迫ったものだと感じます。

ギリーが初めて自分のいたい場所を見つけたのに、作者さんはなぜそれを失わせたのでしょう(・_・?)。

私も、てっきりトロッターさんたちと完全に和解してちゃんと家族になってハッピーエンドだと思っていたので、このラストは意外でした。

その疑問を紐解くには、ギリーとトロッターさんの最後の会話がカギになると思われます。

「人生は思うようにはいかない、つらいだけ。最後は誰でも幸せになるなんて嘘っぱち。それでもいいこともたくさんある」という言葉。

それがパターソンさんが読者の子どもたちに一番伝えたかったメッセージだからではないでしょうか。

きっと、この物語はギリーのような子への、パターソンさんのエールなのでしょう。

『ギリーのように、親のいない子たち、あるいは親がいても家庭がうまくっていない子たちがたくさんいる。

君たちにとって人生はつらいことも多いでしょう。いつかは親が迎えに来てくれる、親がまともになってくれる、誰かが自分を愛してくれる。そう思って幸せを期待しても、その期待はあっけなく壊され、余計つらい思いをすることだってあるかもしれない。だけどきっと素晴らしい人にも出会える。本当の君を愛してくれる人にも出会える。つらいことと同じくらいいいこともあるでしょう』

パターソンさんはそう伝えたいのではないでしょうか。

本書を読んだ子供たちが、ギリーの怒りや悲しみに共感し、つらい結末にも一筋の希望を見出すことが、作者パターソンさんの願いなのだと思えてなりません。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

念のため、トリィ・ヘイデンの本のアマゾンリンクを張っておきます。

 

シーラという子―虐待されたある少女の物語

シーラという子―虐待されたある少女の物語