児童書のレビュー・考察ブログ

主に海外の小学生・中学生向け児童書の感想、考察をしています。

やぎのあたまに―アウシュビッツとある少女の青春 ネタばれなし感想

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アランカ・シーガル作       

小柴一 訳  

草土文化(出版社)

1982年ニューベリー賞オナー賞受賞 f:id:g-mccaghrean:20190903180323j:plain

面白さ ★★★★☆ 4点

メッセージ性 ★★★★★ 満点f:id:g-mccaghrean:20190827163140j:plain

内容 ハンガリーユダヤ人達の、アウシュヴィッツに送られる直前までの迫害と不安の日々を、少女の目を通して綴るノンフィクション。

感想 

  • いいところ

ノンフィクションとして重厚で、人物の心情や当時の状況がきめ細かく描かれていて完成度が高いf:id:g-mccaghrean:20190929092401p:plain

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・歴史的悲劇であるナチスドイツのユダヤ人迫害を、一人の少女の視点に絞って読むことで、身近な感覚で追体験することが出来る

・物語は割と淡々と進み、児童書として適切な重さで残酷すぎない。

 

 

  • 悪いところ

・説明不足で時々物語や人物の関係性などがわかりにくい。登場人物もそれなりに多いので、メモをしながら読むこと必須f:id:g-mccaghrean:20191122205758p:plain

なので、主な登場人物を書いておきますね。

やぎのあたまに―アウシュビッツとある少女の青春 ハンガリー1939~1944 (1982年)

やぎのあたまに―アウシュビッツとある少女の青春 ハンガリー1939~1944 (1982年)

 

 

・ダビドビッチ家

ピリ 主人公 8歳―13歳

ファゲ・ロシュネル おばあちゃん。

お母さん 

イグナッツ ピリのお父さん。リリが12歳の時に未亡人だったお母さんと結婚した

リリ 一番上の姉。20代と思われる

ライオス リリの夫

マンチ リリの子。

エトゥ 姉の一人

ロジィ 姉の一人

イボヤ 二つ上の姉

サンドル 幼い弟

ジョリ 末っ子の妹

ルイザ 父方の叔母

サニィ ルイザの夫

シュルル 父方の伯父さん

 

・ガーバー家 

ジュディ ピリと仲良くなる少女

シャーロッテ ジュディのお母さん

パリ・ガーバー ジュディの兄弟

 

 

フェレンツ 気のいいハンガリー警官

モルカ ピリの友達

イツァ・モルナール 近所の少女

コバッツさん お母さんの雇い主の店主

シャファル・ヨスカ ユダヤ人民族運動参加者 

ヒルシュさん ユダヤ人会の人

フェール先生 かかりつけの医者

ラカトス 郵便屋さん

ガリ・ヴァイス ピリより3つ上のお金もちの少年。

ヴァイスさん ガリのお父さん

シュヴァルツさん 小売店の店主。イボヤを雇う

ラボビッチ ゲットーの女性

カルラ ラボビッチの娘

シュスターさん ゲットーの世話役

ヘンリー 若者

 

 

 

  • その他語り ※ネタバレあり。反転

 

本書を知った時、「奇妙な題名だな」と思ったのですが、ユダヤ教の山羊のいけにえからとって、山羊のようにいけにえとして虐げられるユダヤ人を現しているんですね。

人々の世の中への不満のはけ口として迫害される運命なんてあまりに理不尽すぎる・・・。

 

ピリのお母さんは、おおらかな人で、ユダヤ人的なつながりだけに固執せずに近所の別の人種、宗教の人たちとも助け合ってきたんですよね。しかしそのお母さんである、おばあちゃんはお母さんに「お前はその人たちを友だちだと思ってるけど、本当に困ったときに助け合えるのは家族だけなんだよ。(裏覚えf:id:g-mccaghrean:20191122205540p:plain)」

的なことを言い聞かせますが、お母さんは助け合ってきた人たちとの絆を信じようとします。けれど、事態が切迫してくるとみんな自分たちのことだけしか考えられなくなっていき、本当に一番つらい時に何もしてくれなくなってしまうんですよね。

そしてピリの友達になる、ジュディという少女。彼女は進歩的な考えを持った家で育てられ、ユダヤ人としての生き方に縛られず、ユダヤ人としての自覚も薄く生きてきました。彼女自身も、そのリベラルさを自慢に思って事あるごとに口にしてきました。

しかし残酷な運命は、ユダヤ人である以上、そんな生き方は意味がないとばかりに、お母さんや、ジュディを迫害の渦中に巻き込んでいってしまうのがつらくて胸に刺さりました。

 ラスト近くのジュディの残す、数々の名言が印象に残りました。

彼女がボーイフレンドのガリとの今後の恋愛観とか、ゲットーの世話役のシュスターさんについて語ったこととかは,ただ悲しいだけではない、何かがあり、本書の人間描写の深みを感じます。