ビーストの影 ネタばれなし感想
ジャニ・ハウカー 作
田中美保子 訳
レターボックス社
1985年 ガーディアン賞受賞
面白さ ★★★☆☆ 3点
メッセージ性 ★★★☆☆ 3点
良くも悪くもイギリスらしさ ★★★★★ 満点
内容 ぼくは、ビル・カワード。ネッド・カワードの息子で、チャンダーじいちゃんの孫。正真正銘まぎれなし。そして、このぼくが、たったひとりだけ、ほんとうにビースト(獣)のことを知っている人間。だのに、だれもぼくの話を聞いてくれない。だぶん、きみも、ちゃんと聞いてくれないんだろう?ま、いいさ。とにかく、話すよ。それは、一月のある寒い晩、おやじが仕事から帰ってきたとき、始まった……
感想 つまらなくはないけど、ところどころ惜しい作品でした。
主人公をとりまく状況は、子どもにはきついものでしんどいだろうなと同情心が沸いてもいいはずなのに、なぜか共感をあまりできない。
なぜだろうかと考えたところ、主人公が淡々としてお父さんのダメさ加減を目の当たりにしても、周りで大変なことが起こっても、そんなに悲しんだりショックを受けたりしてなさそうなところに一因があるかもしれない。
それに主人公の喜怒哀楽の「怒」の部分は出ていても、「喜」や「楽」とかの、情とか、優しさとかの部分ががあまり出てこないうえ、ちょっと愚痴っぽかったり、すぐ人を悪く言ったりするところもあるので感情移入しづらいんですよねσ( ̄∇ ̄;)。彼の状況を考えれば、愚痴っぽくなるのは当然かもしれないけど、人間は愚痴ばっかり言っている人にはどうも共感できないのでは?と思ってしまいました('ε')。
また、ビーストが正体不明の存在をちらつかせるのもサスペンス的な見どころのはずで、ハラハラ(;゚д゚)とかドキドキ(゚∀゚*)を期待していたのですが、それがいまいち低くて。
ハラハラできないのは、ビーストの存在感がなさ過ぎるんですね。
ほんとにいるのかどうか怪しいっていうのも作者さんの計算のうちなんでしょうけれどそれにしても影が薄い。もうちょっと迫ってくる危機感があってほしかったです。
サスペンス作品としての緊張感があまりないのが残念でした。
裏表紙に、フィリッパ・ピアス(「トムは真夜中の庭で」の作者さん)の書評がのっていて、ピアスさんが言うには、「ビーストは人間らしさを脅かす脅威の象徴」らしいですけど、そこもあまりピンと来なかったです。登場人物たちは、陰鬱で荒んでるけど、別に人間性をなくして動物のようになっているわけでもないし。
結局、これといった見所があまり見つけられませんでした。
ただ、終盤のほうの「出陣」のあたりは一瞬のシーンですけど割とよかった。
「冒険」みたいな楽しいノリじゃなく、重めの出発なんだけど、そこもまた味わいになっているというか、緊張感があって良かったですね。
ラストについては、「この終わりどうなの?」って思ってしまいました。
終始暗めのストーリーなのにカタルシスがないのもちょっと…。
あまりに救いがないというか、後味悪いというか。
それを「ビルみたいな子が実際にたくさんいるんだ、現実的だ」ととらえる方もいると思いますが、個人的にはそれでも納得できないものがありまして。
というのも昔、宮崎駿監督が本か何かでいっていたんですが、「予想される未来が暗くても作品の中で子供に対して『未来は暗いんだよ、希望はないんだよ』なんて言うことは全く意味がない」というようなことを主張していまして。(あいまいですみません)
まあ、その割に宮崎監督は、書下ろしマンガ書いて語るくらいに児童書作家のロバート・ウェストールさん大好きなんですけどね。アンハッピーエンド作品の多いのに。
でも、宮崎監督の主張は私もすごく納得させられまして。確かにそんなこと、子供に伝えても何の解決にもならないよな、と思ったんですよね(。 ・ω・)) ゥンゥン。なので私の持論は「児童書は希望を持たせて終わるべき」です
以上、いろいろ批判しましたが、まあ、普通程度には面白いので「イギリスっぽい暗い小説が好き」という方は読まれてもいいのではないでしょうか。
読んでいただき、ありがとうございました。
1988年に映画化されてますね。日本でも上映されたようです。